空のペットボトル

読んだ本やアニメの感想。

リズと青い鳥の話。

なんとか月1ペースで更新できてます。私事ですが3月から社会適合の儀が始まり精神的にも時間的にも余裕が減っていて大変です。今日も選考がありその後映画を観てメールをチェックしたらこの前最終面接を受けた社から祈りを捧げられました。内定はありません。

 

本題ですが先日「リズと青い鳥」を観ました。今日もまた観ました。めっちゃよかったです。

liz-bluebird.com

 

この作品ですが「響け!ユーフォニアム」の続編のようなスピンオフのような作品で、2期に登場した鎧塚みぞれと傘木希美に焦点が当てられた物語となっています。しかし、TVシリーズの時と絵のタッチが変わっていることや、タイトルに「響け!ユーフォニアム」の文字がないことから分かるように、だいぶ毛色の違った作品となっていてこの映画単品でも楽しめるようになっていました。

 

とにかく描写が圧倒的という印象を受けました。それは音楽や作画、声優の演技がダイナミックで迫力があったというわけではなく、細かな動きや小さな音すらも逃さず捉えきっていて本当にその空間が存在しているような質感がありました。

特にその中でも瞳の描写は気合が入っているなと感じます。「目は口ほどに物を言う」を体現しており、寡黙な鎧塚みぞれの感情がありありと伝わってきました。90分間ずっと感情、と言われる理由はここにあります。しかも記号的な表情は一切使わず、僅かに瞳を小さくする、細める、揺らがせる、などの細やかな変化で登場人物の表情・心情が視聴者である我々にも伝わるような描写は正に圧倒的でした。

 

ここからはネタバレ含めて思ったことをわーっと書いていこうと思うので是非劇場で観てから読んで欲しいです。

 

 

 

 

冒頭の靴音のシーンからこの映画なんかヤバいと感じました。静かな靴音で学校に着き、希美を待つみぞれ、他の生徒の靴音が聞こえても立ち上がらない、けれど希美の快活な靴音にはすぐ反応してしまう。また、歩く二人のバラバラな靴音がリズムになってBGMになっていくところが「灼熱の卓球娘」の練習時のBGMみたいで好き。でも、この二人のバラバラな靴音って噛み合わない二人を表しているんですよね……

校内に入ってから階段を2段飛ばしで進む希美とゆっくり上るみぞれ、一瞬みぞれの視界から希美が消えてその後上の方からひょっこり希美が顔を出すシーン、その時のみぞれの怯えたような表情がつらい。ユーフォ2期で語られた希美がなにも言わず部を去ったことが今でもトラウマになっていることがわかるシーンでした。

 

大好きのハグ、突然めちゃくちゃサービスシーンみたいなあからさまな百合がきたなと思ったんですけど実際女子校とかだとありがちらしいです、又聞きなのでわかりません。でもこんなありがとうシステムの使い方がとても悪い。劇中では3回、この大好きのハグがみぞれと希美の間で行われようとします。1回目は部の後輩がやっているのを見かけ、みぞれはやったことがないと返す、それで何の気なしに希美が手を広げるんですが、みぞれがやろうとする直前で希美が冗談めかしてやめる。鈍感主人公ばりのダメさですね。2回目は希美に対し怒ってないかを問い、みぞれから手を広げます。希美はまた今度ねとそれを拒絶します。そして3回目、みぞれが飛び掛かるように抱き着き、「希美の足音が好き、声が好き、髪が好き」と大好きのハグのルール(?)、互いの好きなところを言い合うことで「希美の全てが好き」と伝えます。その時希美は若干足を後ずさっているんですよね、この期に及んで逃げようとするな。これに対して希美は「みぞれのオーボエが好き」とたった一言いって笑います。希美はみぞれに「希美のフルートが好き」と言って欲しかったのでしょう、しかし数多く挙げられた「好き」にそれはなかったのです。「ありがとう」と繰り返して希美は抱き着いたみぞれを離します。この時の「ありがとう」のニュアンスは言葉通りではなく「もういいよ」といったものに聞こえました。

冒頭の練習時でもそうだったんですけどこの二人の「好き」は違うものなんですよね。対象が違うこともあれば意味合いが違うこともある。自分の「好き」と同じ「好き」が相手から返ってはこない、そんな噛み合わなさ、もどかしさが最初はみぞれの視点で伝わってきたのですが、最後の「みぞれのオーボエが好き」で希美が求めていた「好き」も異なっていたことがわかりました。

 

あらすじにもある「どこか噛み合わない歯車は、噛み合う一瞬を求め、まわり続ける。」という一文が本当に好きで、この作品をもっともよく表した一文だとも思います。足音も、会話も、「好き」の形も噛み合わない二人が、傷つきながらも寄り添って、いつか噛み合う瞬間を求める、そんな物語だったと感じます。

最後、みぞれは音大へ、希美は普通の大学へ道を分かつことになりますが、鳥かごの比喩であった学校を抜け出た二人は、言葉が重なり、バラバラだった足音も重なり、歩いていき、冒頭映された「disjoint」の文字は「joint」という文字に変わり、物語は幕を閉じます。今まで噛み合わなかったもの全てが重なる瞬間、この瞬間こそ最高に気持ちのいいものでした。物語はハッピーエンドが良いよ……

 

愛とか恋とか童話の重ね方の話とかもしようかなって思ったんですけどまとまんなくなってきたんで終わります。

パンフに監督自らの解釈とかが載ってて最高だったんで買って読んでみるのもおすすめです。